パイプオルガンについて

1 楽器の王様

パイプオルガンは「楽器の王様」といわれる。原形となる楽器は二千年以上も昔に作られ、一番古い楽器のひとつなんだ。サイズをとってもパイプオルガンほど大きな楽器はないし、音量も数百年前まではこの世で一番大きな音を出すものだったに違いない。その昔、この「王様」より大きな音を出すものは、大砲くらいだったんじゃないかな。壮大な音を弾いたり聴いたりして楽しむのはもちろん、楽器の輝かしい装飾やデザインを見るのもオルガンの楽しみのひとつ。世界で同じ楽器がひとつもないのもまた魅力なのだ。演奏家として、毎回違う楽器を演奏することは時々不便だったり、不安だったりするけれど、それが オルガニストの宿命でもあり醍醐味でもある。わりと気難しい「王様」が多いので、新しいオルガンと出会うたび楽器と仲良くなるのにちょっとだけ時間がかかる。十分な準備と練習が必要なわけだが、自分の楽器を持ち歩ける演奏家にはなかなか理解してもらえないんだな。

2 オルガン音楽はつまらない?

「パイプオルガンの音楽はつまらない」という人がいたら、残念ながら同感してしまう。オルガンの音は壮大で素晴らしいけれど、「やたら重たい」「感情がない」というイメージが簡単に作りあげられてしまうんだ。20世紀の偉大な作曲家「ストラヴィンスキー」はオルガンを「呼吸をしない怪物」と皮肉り、結局オルガンのために作曲してくれなかった。朝起きてすぐにオルガンの重々しい音楽を聞いたら、胃が消化不良を起こしてしまいそうでしょ。朝は、ヴィヴァルディのコンチェルトのような軽快な音楽のほうが健康的かな。人々のオルガンに対しての感じ方というと、例えばテレビや映画でも恐怖感を出すためにオルガンの音を使うよね。そんなにオルガンって恐いのかな。17世紀のバロック時代までオルガン音楽は常に教会の中で発展してきて、18世紀の啓蒙運動が始まり人々が宗教から離れはじめた時代以降は、あまりオルガン音楽が作曲されなくなった。オルガン史はバッハを最後に19世紀の半ば頃まではほとんど空白なのは本当ににさびしい。オルガンはロマンチックな楽器ではないから、ロマン派の作曲家にもかなり無視された。リストやフランクなどが多少の音楽を残してはいるが、ピアノ曲や弦楽の曲の多さにはかなわない。オルガンの三大作曲家といったら、「バッハ」「フランク」「メシアン」。それに続くのが「レーガー」でしょ。それにしてもみんな理屈っぽくて、カタブツぞろいなんだ。それにくらべて、「ベートーベン」「ショパン」「リスト」「ドビュッシー」など、私生活でも恋愛にまつわる逸話を残した作曲家が多くて、なんとなくかっこいい。

3 オルガンを演奏するにあたって

とはいえ、オルガンは一人の演奏家があらゆる音をあやつるオーケストラのような楽器で、オルガンを演奏するほうは文句なしに楽しい。聴衆がオルガン音楽はつまらないと感じるのは演奏者にも責任があると思う。大聖堂でオルガンが演奏される時、演奏者が全然見えない場合があるね。「オルガンが勝手に演奏しているのだろうか」って感じだよね。コンサートホールでは一応演奏者が見えるけど、たいてい見えるのは背中だけでしょ。たまに楽譜めくりのアシスタントがとなりにいたりするけど、よく知らない人には「助手の必要な楽器」だと思われてしまうよ。歌やヴァイオリンの演奏会と違って、聴衆がオルガニストの表情、息づかいを見ることができないのが一番のネックかな。そのためにオルガニストの中には曲の間に聴衆に話しかける人がいるけど、それはとてもよいと思う。これは曲の説明だけの場合もあるし、その他楽しい話を含めたものも多い。アメリカ人は特に話がうまい。漫才をしろって訳ではないけど、せっかく来てくれた聴衆を少しでも楽しませようという試みだよね。僕たちも演奏時には客に向かって話をするように催促される。はじめは恥ずかしくて、いやだったけど、ちょっとしたことで笑ってくれる陽気なアメリカ人にはわりと話もしやすい。英語の発音が日本語なまりなのが受けているのかもしれないね。

Balboa Park
いつも台詞を読みながら聴衆に向かって話をする
(ちょっと頼りない)

[2001年12月1日]

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