パイプオルガンの女王

ダイアン・ビッシュのオルガン演奏会に行ってきた。場所はフォートワース市のブロードウェイバプティスト教会。五段鍵盤でストップ数129のカサバン製で、現在テキサス最大のオルガンがある。「オルガンの女王」の演奏をライブで聴くのは夢だった。

「ダイアン・ビッシュはいつも簡単な曲ばかり演奏するのでずるい!」と言うオルガニストがいた。演奏会場でプログラムを受け取った時、「なるほど、ホントだ」と思った。ところが演奏を聴いているうちに、不思議な魅力にぐいぐい吸い込まれるような気分になった。たいていのコンサートオルガニストが弾かないような耳に易しい楽曲がとても新鮮だったし、作曲家による指示だけにとらわれず、いろいろな音色を自由に使い、楽器と楽曲の魅力を最大限に引き出していた。オルガニストは演奏中に背中を向けている場合が多く、なかなか聴衆と一体感を持つことは難しいけれど、彼女にとってはそんなことなんのその。自身の体験談を交えたスピーチが楽しく、女王様が私のため僕のためだけに演奏しているような錯覚さえおこしたほど。彼女の衣装もピカピカ豪華で見とれてしまった。うわさどおり、後半のプログラムではドレスを着替えて登場した。ほんとうにパイプオルガンの女王と呼ぶのにふさわしい人であった。しかも女王はかなり商売上手だった。自身のアレンジ曲もプログラムに入れ、それらの入った楽譜や数多くのCDを「演奏後に売るよ!」とスピーチで聴衆に何度も売り込んだ。最近出版された自伝を「私の事をもっと知りたかったら買ってね。年齢知りたいでしょ?」と売り込んでみんなを爆笑させた。演奏会が終わると、多くの人が列を作って買っていた。彼女は誰とでも会話を交わし、サインにも応えていた。

彼女はアメリカで一番有名なパイプオルガン奏者だ。彼女は欧米諸国のオルガンを弾いて紹介する「Joy of Music」というテレビ番組を持ってて、もう400回も放送されているという。オルガン音楽をあまり知らない人でも、ダイアン・ビッシュの名前は知っている。彼女の賛美歌のアレンジ楽譜はアメリカに住むオルガニストなら1冊は持っているだろう。ところが彼女はオルガン協会からは敬遠されている。彼女自身も協会には属さず会誌に宣伝も載せない。頭の硬いオルガニストたちのサークルに入ることなくのびのびと自由に演奏する。売れっ子で目立ちすぎていて、ちょっと嫉妬されているのかもしれない。「簡単な曲をならべたプログラム」と悪評されることもあるが、難しい曲を弾けば良いわけではないし、一般の聴衆には楽曲の難易度などどうでもよいのだ。

彼女は実は20数年前、私たちの住むウィチタ・フォールズ市の大学でオルガンを教えていたんだけど、2年で首になってしまったそうな。そしてウィチタ・フォールズを去ってから彼女はビッグになった。そんな過去もいかにも女王様らしい。

[2002年2月26日]

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