パリ旅行記・5日目〜クープランのオルガン

17から18世紀のバロック時代、数多くの音楽家を出した大家族がドイツとフランスにいた。ドイツはバッハ家で、フランスはクープラン家だ。そのクープラン家でも一番有名なフランソワ・クープランが演奏していた、というパイプオルガンが今でも残っているサン・ジェルヴェ・サン・プロテ教会に行った。教会は広いのだが、オルガン演奏台のあるバルコニーはとても狭い。そのために今朝は12人程度の小さなグループに分かれて行動。フランスの古典音楽を演奏するのに適した音色を奏でる。古典とロマンでは、音楽も演奏法も楽器もすべての面において極端に異なるのだ。ヨーロッパどこでも言えることだが、特にフランスではその差が著しく、非常に面白い。

午後のイベントまで時間があったので、個人行動でシテ島にあるコンシェルジュリーとサント・シャペルを訪問。どちらも入場料が8ユーロした。コンシェルジュリーは14世紀の王室管理府で、フランス革命時には、2600名もの貴族や革命者たちが処刑前の最期の日々を過ごし、マリー・アントワネットの独房もあった場所。サント・シャペルにはオルガンがないが、なんと言ってもステンドグラスがこの世のものとは思えないほど素晴らしかった。ちなみに、サント・シャペルは最高裁判所の敷地にあるためか、飛行場にあるような荷物検査を通過しないと入場できなかった。

午後はサン・セヴラン教会。11世紀には建てられていたという歴史の古い教会だ。ここでは11人の講習生がそれぞれ短めの曲を演奏する予定だった。ところが時間になってもなかなか専属オルガニストが現れない。45分ほど遅れてオルガニスト、フランソワ・エスピナス氏が登場。少しばんばひろふみ似のとても愛想のよい人で、日本人と結婚しているために日本語も多少話せる。まず彼が15分ほどオルガン演奏を披露。その後、事前に選ばれた講習生が演奏してみるだけの予定だったが、いざ一人目が演奏をはじめると、自然に公開レッスンになってしまった。ニコニコして愛想の良いおじさんが、とたんに厳しい先生に変身する。ちょっとしたコメントで生徒の演奏がとたんに良くなるのは、まるでマジックだった。時間を忘れて本気で教えるから演奏できた人の数が限られてしまい、自分には機会がなくなってしまったが、妻が運良く2番目に演奏できた。あまり親しみのないフランスの古典、クープラン作の小曲を演奏して、短い間にいろいろ教わることのできた、とても良いレッスンだった。

急いでマドレーヌ教会へ。古代ギリシャの神殿のようなデザインの建物が素晴らしい。ここのパイプオルガンは、パリでトップ3に入るカヴァイエ・コール作の名器だという。それに音楽的にとても歴史の深い教会だ。サンサーンスやフォーレが専属オルガニストだった事もあるし、フォーレの名作「レクイエム」はここで初演された。ショパンの葬式はここで行われ、そのときはサンサーンスの前のオルガニスト、Lefebure-Welyがオルガンを演奏した。さて、このマドレーヌ教会では、フレデリック・ブランクという名のオルガニストが、オルガンと教会の説明とデモ演奏をした。オルガンは、なるほどパワフルでとても美しい音がする。オルガニストにとってはたまらない楽器だ。あまりの多くの講習生が演奏を希望したので、ここは速やかに退散した。

夕方のイベントまで多少の時間があったので、偉大なオルガン作曲家、セザール・フランクが死ぬまで専属オルガニストとして務めた、サン・クロチルド教会に立ち寄ってみた。ここは観光客がほとんど来ない高級住宅地で、とても静かな教会だった。教会の入り口の手前には小さな公園がある。オルガンはカヴァイエ・コール製なのだが、近年あらゆる改良がされてしまい、現在ではあまり特別な楽器として扱われていないという。今回の講習会にこの歴史的に重要な教会が含まれていなかったのはそのためだろうか。フランクの他、ラングレーも専属オルガニストだったのに、なにかもの寂しい感じがした。

その後、ナポレオン一世が眠っている事で有名なドーム教会に隣接している、サン・ルイ教会で公開レッスンを受けた。ここではデュプレ作「ノエルによる変奏曲」を演奏した。講師はスーザン・ランデールという女性のオルガニスト。金の飾り付けが美しいパイプを持った楽器だが、演奏した感じもオルガンの音も別に特別でなかった。教会内の音響はさすがだが、これくらいのオルガンならアメリカにもたくさんある。

今回の講習会で一番親しくなれたのは、イェンス・コルンドルファーという名のドイツ人だった。パリ音楽院に通い、ノートルダム大聖堂の専属オルガニスト、オリヴィエ・ラトリーに師事。アメリカのオベリン音楽院では修士を得る。札幌コンサートホールのオルガニストを一年間勤めたこともあるので、日本語が多少話せるのだ。現在はドイツに戻っているが、9月からはカナダのモントリオールに移り、博士課程の勉強をする。勉強家なのだろうか、まだ30才なのに頭髪は薄い。彼はフランス語も達者なので、今回の講習会では案内役も務めた。

イェンスはノートルダム大聖堂の付近について詳しい。だから夕食には、彼おすすめのフランスレストランに連れて行ってもらった。行った場所はクレープ専門店。クレープと言うと、フルーツやクリームの入ったデザートを思い出すが、フランスには食事のクレープもある。自分はチーズがこってりの、まるでグラタンにそっくりのクレープ料理を食べた。妻がオーダーしたスモークサーモンのクレープは、軽くてとても美味だった。飲み物はイェンスの好物だという、りんごのサイダー酒を飲んでみた。アルコール分は少なめなので助かった。


サン・ジェルヴェ・サン・プロテ教会

5段鍵盤のオルガン

クープラン時代のペダル

セーヌ川とコンシェルジュリー

サント・シャペル

サン・ゼヴラン教会

サン・ゼヴラン教会

エスピナス氏とレッスン

マドレーヌ教会

セザール・フランクのオルガン

サン・ルイ教会のオルガン

夕焼けのノートルダム大聖堂

[2009年7月3日]

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