パリ旅行記・11日目〜最後もオルガン演奏会

いい加減疲れてきた。パリも見尽くしたので、そろそろテキサスの実家に帰りたい。今朝はのんびり9時に起床。パリの天気は変わりやすいと聞いていたが、たしかにそのとおりだった。はじめの1週間は、気温が高かったが、運良く毎日のように快晴だった。7日目くらいから涼しくなり、気温的には涼しくなったが、晴れたり雨が降ったり、天気がコロコロ変わるのだ。今朝はかなり肌寒い。

パリ最終日は、シャンゼリゼ大通りの散歩からはじまった。まず地下鉄でコンコルド広場に行く。ここから凱旋門まで全長1880メートルに及ぶ道をのんびり歩くのだ。フランスは7月14日が革命記念日で、最も大切な祝日だという。前日の13日にはコンコルド広場で前夜祭。14日午前はシャンゼリゼ大通りでの軍事パレード。日没後には盛大に半美が打ち上げるほどのお祭りだ。そのためにコンコルド広場付近のシャンゼリゼ大通りには、特別に観客席が設けられていた。そして大通りの両側にはフランスの国旗が、コンコルド広場から凱旋門までずらりと飾り付けられていた。途中にはグラン・パレ国立ギャラリーが左側に現れたが、そこには立ち寄らずそのまま直進。この辺りからは道の両側に多くの高級店が立ち並ぶ。トイレに行くためにマクドナルドに寄った。フランスらしく、お菓子のマカロンがあったので、イチゴとピスターチョ味を試食。とても美味しかった。初日に夕焼けの凱旋門を見たが、晴れた昼の凱旋門はさらに堂々とそびえ立っていた。

次に向かったのは、モネの大作「睡蓮 Nympheas」8枚があるオランジュリー美術館。8ユーロの入場券を買おうとしたら、13ユーロでオルセー美術館も合わせて行けるというチケットがあったために、それを購入。オランジュリー美術館は上階にモネの「睡蓮」があり、下階にルノワールやセザンヌなどによる144点の作品が展示されている。あまり大きくない美術館なので、とても見やすい。それにしても、80歳近いモネが白内障を克服して完成した力作だという「睡蓮」は素晴らしい。しかも天井からの自然光を使い、広々した楕円形の部屋に展示されているのが、とても洒落ている。あたかもモネの庭に免れ、きらめく水辺を歩いているかのようだ、とガイドブックに書いてあったが、まさにその通りだった。

それから再びオルセー美術館だ。今回はもうすでにチケットを持っているので、列を並ばずにすんなりと入場できた。あまりにも気に入った美術館なので、もう一度チェックしたかった。館内は前回より空いていて、有名な絵の前には人だかりがなく、おかげでもっと自由に鑑賞することができた。ところが、とても楽しみにしていたアングル作の「泉」は、案内図を使って念入りに探してみたが、今回もどうしても見つからなかった。

昼食は美術館のそばにあるカフェ。日本語メニューもあると表示されていたがもられなかった。てきとうに魚料理を食べたが、それほど美味しくない。それに美術館のそばだからか、値段が高かった。ウェイターたちの態度もなんとなく傲慢だった。

昼食後は長い散歩をした。前夜のバレエが素晴らしかったので、もうひとつ別のバレエかダンスに行けないかと思い、パリ・シャトレ劇場に行ってみようという計画だ。運良く今夜のチケットを買えるかもしれない。道の向こうにはパリ市立劇場もあるので、そのどちらかで何かやっているだろうと、下調べなしの行動を選んだ。これが意外な展開になり、ちょっとした幸運を呼ぶことになる。

劇場までの道のりはなかなか遠い。まずオルセー美術館からセーヌ川沿いに歩く。カルーゼル橋を渡りセーヌ川を越えると、左にはとチュイルリー公園、右にはルーヴル美術館とピラミッドがすぐそばに見える場所に出る。その先のリヴォリ通りを東に向かって真っ直ぐ歩き、途中で右に曲がってパリ・シャトレ劇場にたどり着く予定だった。あと数百メートルほどでゴールという時に、ふと左を見ると、かなり先に大きな教会が見える。急いでガイド・ブックで調べてみたら、なんとサントゥスタッシュ教会ではないか。大好きなフランスのオルガニスト、ジャン・ギユーが勤める教会で、今回の旅ではまだ行っていなかった場所だ。もう古い教会を見るのには飽き飽きしていたが、これを見逃すわけには行かず、寄り道してみた。広場からは、教会の正面ではなく、全体が真横から見えるように建てられているのが珍しい。16世紀に建てられたというこの教会は、フォーロム・デ・アールという巨大なショッピング・センターのとなりにある。入って見たら、教会のフロアにグランドピアノとオルガンの演奏台が置いてあり、調べてみたら、なんと今夜はオルガンとピアノの演奏会があるという。それに演奏者はあのジャン・ギユーだ。まるでこのフランス旅行の最終日はこのイベントに行きなさい、と神様に導かれたような思いだった。おかげでパリ・シャトレ劇場に行く計画は取りやめた。

夜8時半の演奏会までまだ4時間以上もある。そこで歩いてすぐに行ける場所にある、国立近代美術館に行って時間をつぶす事にした。国立近代美術館は、まずその外観に圧倒される。正確にはボンビドゥー芸術文化センターという建物の5,6,7階を占めているのが美術館なのだが、その建物自体が近代芸術だ。工事現場を思わせるような斬新なデザインで、上階へは透明なパイプ状のエスカレータで登る。ここでも行列はすごかった。入場料は特別展込みで12ユーロ。パリの美術館では常設の他に、特別展は別料金になっている場合がある。今回は特別展でロシアの画家、カンジンスキーの作品を展示していたので、まず企画展示室のある7階から鑑賞した。5階には1960年以降現在までの作品があるが、理解に苦しむ作品が多く、半分くらい観たら疲れたので、20世紀初頭から60年代までの作品を展示している6階に行った。ここにはマチス、セザンヌ、ピカソなど、多少は見覚えのある作品がたくさんあった。中でもダリの作品で、ピアノの鍵盤にレーニンの顔が6つ並んでいる絵画の実物に出会えたのは感激だった。

それにしても、この近代美術館も巨大だ。中は迷路のようになっているので、たくさんの作品を観ようとすると、体力がもたない。外に出たのは6時半頃で、コンサートまではまだ2時間もある。そこで、「地球の歩き方」にも紹介されていた、サントゥスタッシュ教会の近くにあるエスカルゴの専門レストラン「レスカルゴ・モントルグイユ」に行くことにした。せっかくなので、パリでの最後の夜はちょっと贅沢に食事をしよう。レストランに着いたのは6時45分。開店は7時だという。ガイドブックには「予約要」と書いてあったので、7時の予約をたったの15分前に、しかもその場で頼んだら、なんとか大丈夫だった。入り口に置いてあるメニューには、35や45ユーロでのセットニューが載っていたが、これはランチのみ。夕食はもっと値段がかかるのだ。夕食用の豪華なセットメニューは89ユーロもする。とにかくちょっと豪華なフランス料理を試してみたかっただけなので、3種類の味付けが楽しめるエスカルゴを2つずつ(合計6つ)、前菜のリゾットをひとつ、主食には魚料理をひとつ、そしてデザートをひとつ注文して二人で分けることにした。こういう夕食は、正式には何時間もかけてのんびり楽しむのだろう。注文した食事がなかなか出てこない。メインの魚料理を食べたころは、もうすでに8時10分だった。デザートも相変わらずなかなか出てこないので、それはキャンセルして店を出ることにした。間に追われてハラハラだったが、約90ユーロで豪華な食事が楽しめた。とても良い経験だったが、このようなレストランは僕らの気性に合わない。テンポが遅いだけでなく、店の雰囲気やメニュー、そして店員の態度まで全て気取りすぎているからだ。

演奏会の入場料はひとり18ユーロ。演奏時間ぎりぎりに入場したが、最前列にちょうど2つの席が空いていたので、そこに座った。これまた運が良い。時間になると、まずジャン・ギユーが現れて10分間くらいお話をした。彼を間近で見るのはこれで2回目だが、相変わらずオーラを感じるすごい人だ。老人なのにスタイルがよく、デビルマンのような白髪がとても似合う。ギユー氏は容姿も作品も演奏も、まるで悪魔に取り憑かれているかのようなのだ。とても独特で、個人的にはとても好きだが、彼の演奏に関しては特に賛否両論が激しい。オルガニストの中でも別格で、どのサークルにも属さない独自の存在といって良いだろう。

さて演奏会だが、まず彼自身による作曲で、ピアノとオルガンのための作品「Colloque第二番」が披露された。ギユー氏によるオルガン演奏を楽しみにしていたのだが、オルガンを演奏したのはZuzuna Ferjencikovaという名のまだ20代後半ほどの可愛い女性オルガニスト。東ヨーロッパ系の名前だろうか?彼女はギユー氏の生徒だろうか?2曲目は「バラード第一番」という題名の、これまたギユー作のオルガンソロ曲。とても難しい曲を女性オルガニストが見事に演奏した。3曲目はバッハ作「シャコンヌ」をギユー氏がピアノで演奏した。とても難しいとされる、ロシア人のピアニスト、ブゾーニがピアノソロのために編曲したもので、ギユー氏の演奏技術を存分に楽しむことができた。プログラムの最終曲はギユー作、ピアノとオルガンのための「Colloque第五番」で、再び師弟コンビによる息の合った演奏だった。これらの4曲は全て大曲だ。それにギユー氏の作品は、まるで近代美術のように理解が難しい。近代美術を鑑賞した後、たまたま近代音楽を聴くはめになり、なんだか不思議な気分だった。演奏会には約300人のお客さんがいただろうか、最後の曲の後の拍手がなかなか止まない。アンコールはまず、女性オルガニストは即興演奏をした。これで彼女は絶対ギユー氏の弟子だと確信した。まるでギユー氏が即興しているかのような演奏だったからだ。その後、待っていましたとばかりに、ギユー氏がオルガンのソロをなんと2曲も披露してくれた。1曲目はプロコフィエフがピアノのために書いた「トッカータ」をギユーがオルガンに編曲した作品で、これまたとても難しい曲だ。2曲目はバッハの「大フーガト短調」で、とても早いテンポの演奏だった。ちなみにギユーはピアノでもオルガンでもソロの時は全て暗譜で演奏した。パリではとても充実して実りの多い日々を過ごすことができた。これも僕らの運命だろうか、なんだかんだ言っても、パリ旅行の最後は結局オルガン演奏会で幕を閉じたのである。


パリの地下鉄

マクドナルドのマカロン

昼の凱旋門

オランジュリー美術館

モネ作「睡蓮」

オルセー美術館の時計

カルーゼル凱旋門

サントゥスタッシュ教会

教会の外にあったオブジェ

パイプオルガン

オルガン演奏台

国立近代美術館

エスカルゴ専門レストラン

本場のエスカルゴ

ジャン・ギユー氏の演奏会

[2009年7月9日]

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